太陽ファルマテック株式会社 様過酢酸サイクル除染と将来の自動化を見据えた拡張性を融合
アデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子治療薬の製造で、最終製剤充填工程においてご使用頂いております。過酢酸サイクル除染で、従来の過酢酸除染におけるデメリットの解消と除染効果の維持を両立しながら無菌空間を構築すると共に、将来的な自動化を見据えた仕様でご提案しています。ウイルスを用いた製造のため、高い気密性を有する当社アイソレータを安心感をもって導入頂きました。
導入の背景
太陽ファルマテック株式会社様(以下、太陽ファルマテック様)は2020年11月より遺伝子治療用製品製造受託事業を開始され、今後AAV(アデノ随伴ウイルス)を用いた遺伝子治療薬の受託製造を行われる予定となっています。
遺伝子治療用製品製造設備の構築の一環として、製造ラインの一部となる最終製剤の無菌充填工程における作業空間の無菌性担保の必要性が挙げられました。
検討のさなか、同社高槻工場
技術部
課長代理の宮崎様と弊社スタッフが元来ISPE*で共に活動をさせて頂いていたご縁で、弊社に充填工程における無菌空間の構築についてご相談を頂きました。
「操作性に優れ、且つ高度な無菌操作環境が構築できるアイソレータを導入したい」というご要望をお持ちであったため、リジッドタイプのアイソレータを前提に仕様を詰めていきました。
- *ISPE
- International Society for Pharmaceutical Engineering, Inc.:国際製薬技術協会
お客様の課題と当社の取組み
無菌アイソレータの仕様を詰めるに当たり、太陽ファルマテック様から二つの大きなテーマを頂きました。
一点目は、太陽ファルマテック様が従来導入している過酢酸を使用した除染システムをアイソレータに導入すること、二点目は、将来的な生産増を見越して自動作業にも対応できるよう、予めロボットを内蔵できる無菌アイソレータにすることです。
01.過酢酸除染への挑戦
SD cube Ci(SDバイオシステム様製)
過酢酸除染中の様子
無菌空間構築のため、アイソレータ庫内を除染する必要がありますが、その除染方式は世の中に多数存在します。
過酢酸除染は、一般的によく用いられる過酸化水素除染と同様に真菌、芽胞菌、ウイルスを含むすべての微生物に有効で、低濃度で高い有効性があり、安全性も高い(薬剤の希釈濃度によっては劇物に該当しない)ことから、発がん性の問題があるホルマリン代替のニーズにも適する手法です。
弊社は今まで過酸化水素除染を主な方式として取り入れており、過酢酸除染の実績はありませんでしたが、過酢酸除染のスペシャリストであるSDバイオシステム株式会社様(以下、SDバイオシステム様)との共同開発により新たな分野にチャレンジすることを決意しました。
過酢酸除染には、酸化力が強く結露時に強い金属腐食性があること、湿潤状態では強い臭気が発生することなどの課題があり、安全な除染剤ではありつつも取り扱いにくいイメージが定着されています。
そこで、SDバイオシステム様の技術である、少量の過酢酸を噴霧し続け、酢酸を回収しながら一定の過酢酸濃度を維持する過酢酸サイクル除染方式を採用し、上述の課題を解消しながら高い除染効果を維持する仕組みを構築しました。
SDバイオシステム様は無菌アイソレータでの過酢酸サイクル除染の実績がなかったため、ダルトン製テスト機を用いて除染テストを実施しました。
従来検証された部屋除染の条件を無菌アイソレータの除染条件に近づけることは非常に難しく、計8条件のテストを実施し、アイソレータを除染可能な条件に近づけることに苦労はしたものの、太陽ファルマテック様の無菌医薬品における知見、SDバイオシステム様の過酢酸除染の知見、そしてダルトンがこれまで培った過酸化水素除染の知見をフル活用して、除染に必要な濃度パラメータや除染時間などの重要条件の確認に成功しました。
02.自動化への拡張性
太陽ファルマテック様のもう一つのご要望として、「将来の生産増を見越し、必要時にロボットを内蔵できる無菌アイソレータの検討」がありました。
生産初期は手作業となりますが、生産量が増えた場合はロボットを導入して自動化をしたいということで、ロボット内蔵を想定した無菌アイソレータの仕様と庫内のレイアウト検討が必要でした。
アイソレータを始めとする弊社クリーン機器製品は各製品をオールカスタマイズにて製作するため、お客様には毎度モックアップを推奨させて頂いておりますが、今回はそのモックアップを最大限利用しながら十分な作業性の確認を行いました。
また弊社が従来培ってきた自動化提案の経験を活かし、ロボット作業を想定したシミュレーションと将来ロボットを導入可能な設計を実施しました。
モックアップでは、手作業における高い操作性を実現させるため、想定される作業手順や、緊急時、イレギュラー対応を想定した詳細な作業性確認を実施しました。
具体的な留意点としては、手作業時における「庫内設置備品の位置や数量の確認」、「想定される作業がスムーズにできるか等の作業性の確認」、また、ロボット導入時における「庫内設置備品の位置や数量の確認」、「ロボット可動域および作業内容を踏まえたロボットの設置位置の確認」の両方を実施し、それら作業が満たせるような装置構成をお客様と相談していったため、通常のモックアップよりも時間を要しましたが、それにより満足度の高い装置完成を目指すことができると考え進めていきました。
導入後の効果
弊社のアイソレータの高気密性により、ウイルス製剤を取り扱う作業をより安全に実施頂ける可能性が高いことを、納入前より太陽ファルマテック様に評価いただいています。
弊社アイソレータにおける気密検査では標準として0.5%vol/hのリーク率を30分間にて確認しておりますが、この基準についても一般的なアイソレータとは異なり、高い気密性を保持する条件であることをご確認頂いております。
装置の気密性能が高いことから、納入後の試運転調整および検査、お客様での日常運用中、定期メンテナンス前後も、変動要素が少ないことが考えられるため、安定的な状態維持が可能であることも利点の一つとなります。
この記事で取り上げた製品PRODUCT INFORMATION
無菌アイソレータ
無菌試験、細胞培養などの無菌空間構築が必要な作業に対し、その作業空間を密閉して無菌化することで、作業対象物質への異物混入を防止する装置です。
作業空間内は、定量的かつ再現性のある微生物殺滅効果が得られる各種除染方式により、グレードAの無菌環境が構築されます。
オールカスタマイズでの製作が可能であり、様々な装置や機器とのドッキングにも対応します。
クリーン機器製品やサービスについてのお問合せは、
下記フォームにて受け付けております。