国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 様フレキシブル素材の活用で小型化と低コストを実現
PET薬剤の分注作業において、グレードAの無菌環境を構築可能なフレキシブルタイプの無菌アイソレータをご使用頂いています。厳密な衛生管理が不要なグレードD環境に設置可能な無菌アイソレータを、従来のリジッドタイプと比較してコンパクトかつ低コストで作れないか、という課題感から考案されました。アイソレータの一部にフレキシブル素材を採用したことや、装置寸法を最小限にしたことなどにより、リジッドタイプのアイソレータでは実現できなかったコスト感とスリムさを体現しています。
お客様の課題
体内のがん細胞の有無などを検査するPET検査*で必要なPET薬剤は、通常の注射剤と異なり使用放射性同位元素の半減期が短いため、無菌試験結果判定前に出荷しなくてはなりません。
この背景から、PET薬剤の分注作業においては、「無菌性の確保」が大きな課題となります。その実現には、無菌操作が可能な高清浄度環境の構築と、その環境を維持するための厳密な衛生管理が必要となります。
高清浄度環境の構築においては、無菌アイソレータの使用が想定されることが多く、庫内をグレードA環境とした密閉型のアイソレータは、衛生管理が比較的簡素化されたグレードD環境への設置が可能となります。
しかし無菌アイソレータは一般的にステンレスの堅牢な壁に囲われたリジッドタイプが多く、導入やランニングにコストがかかり、重量もあることから耐荷重制限により設置スペースも限られます。
もう少しコンパクトに、低コストなアイソレータを作ることはできないか、という国立研究開発法人
量子科学技術研究開発機構様(以下、量子研様)のご要望に対し、ダルトンが実現に向けて動きました。
- *PET検査
- Positron Emission Tomography (陽電子放出断層撮影)。ブドウ糖に微量の放射性同位元素を付着させた薬剤を体内に注射し、細胞の活動状況を薬剤の集中度から確認することで、がん細胞の大きさや進行度合いを確認する検査。
ダルトンの提案とその理由
従来の封じ込め
フレキシブルエンクロージャー
無菌用途に転用後の
フレキシブルエンクロージャー
無菌用途に転用
- フレキシブル素材は無菌アイソレータのチャンバー部に採用
- 架台やファンフィルタユニットは従来通りのリジッド仕様で検討
コンパクトで低コストなアイソレータの検討のためには、従来とは異なる仕様をご提案する必要がありました。ダルトンは、製品ラインアップとしてフレキシブル素材で作られたシングルユースタイプのアイソレータ(フレキシブルエンクロージャー)を有しており、それまでは封じ込め用途としてご提案していたフレキシブルエンクロージャーを、無菌用途に転用できないかという発想に至りました。
特殊ポリエチレンで作られた素材は強度が高く、封じ込め性能を保持できるだけの気密性も有しているためグレードAの環境を維持するに足ることや、幅広い耐溶剤性を有するため、過酸化水素を始めとする各種薬液によるガス除染においても耐性が高いと考えました。更に素材特有の柔軟性から、操作性を維持しながら作業頂けることもポイントでした。
フレキシブル素材は無菌アイソレータのチャンバー部に採用し、それを支える架台やファンフィルタユニットなどは堅牢性が求められるため、従来通りのリジッド仕様で検討しました。
無菌フレキシブルアイソレータの仕様
無菌フレキシブルアイソレータ チャンバー部
過酸化水素ガス発生装置
装置幅は900mmで設計し、一般的なクリーンベンチより小さい寸法としました。装置を一部フレキシブル素材にしたことで全体重量が軽くなったことも相まり、設置スペースを選ばないコンパクトな仕様になりました。
また本体は、上部のファンフィルタユニット、中央部のレタンチャンバーおよびフレキシブル素材取付用パン部、下部の装置架台部で3分割が可能な仕様としました。
リジッドタイプのアイソレータであれば、装置の気密性の観点から分割仕様をしたとしても脚の部分だけになるなど限定的になりますが、無菌フレキシブルアイソレータはフレキシブル部分で気密性を保持しているため、その周囲で分割しても性能に影響はありません。
今回の納入現場は搬入経路も含めてかなりスペースが限られる場所でしたので、分割可能にすることで通路に幅がない製造現場であっても搬入経路を確保できるようにしました。
装置庫内にはPET薬剤を分注する遮蔽付きの自動分注装置を格納しました。除染時に装置を結露させないことが重要なポイントの一つでしたが、無菌フレキシブルアイソレータの除染には過酸化水素ガス発生装置を使用したドライ方式を採用したため、過酸化水素の凝縮を回避し、無菌フレキシブルアイソレータと自動分注装置への錆の発生を防止できました。
導入後の効果
一部をフレキシブル素材で構築し、更に構造をコンパクトにしたことで、リジッドタイプのアイソレータと比較して安価に製作でき、量子研様のコストダウンに繋げることができました。
フレキシブル素材の使用感については、「思っていたより操作性が高く、除染操作が非常に簡便である」との評価を頂いておりますが、一方で「ソフト素材のため針刺しなどで破かないように注意が必要」というコメントも頂いております。
ダルトンだからこそ考案できたフレキシブル素材を使用しての無菌アイソレータのご提案により、量子研様のご要望を実現でき、ひいてはPET薬剤の分注のご担当者や、PET検査を受診される方の安全を守ることができていることを非常に光栄に思います。
この記事で取り上げた製品PRODUCT INFORMATION
無菌フレキシブルアイソレータ
無菌試験、細胞培養などの無菌空間構築が必要な作業に対し、その作業空間を密閉して無菌化することで、作業対象物質への異物混入を防止する装置です。
作業空間内は、定量的かつ再現性のある微生物殺滅効果が得られる各種除染方式により、グレードAの無菌環境が構築されます。
ハードウォールタイプの無菌アイソレータと異なり、作業エリア部分にフレキシブル素材を採用することで、作業時の視認性と操作性を維持できます。
標準的な仕様であれば、制御盤を含めた設置寸法はW1500程度となり、既存でクリーンベンチをご使用の場合でも大幅なレイアウト変更が不要で導入や入れ替えが可能です。
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